キャッシュレス新段階、日本に照準 Mastercard「触れない支払い」浸透促進
2021年9月13日日経新聞 2021年7月30日 掲載記事
Suica(スイカ)など交通系ICカードやPayPay(ペイペイ)、楽天ペイ……。日本でもキャッシュレス決済が広がる中、世界では新型コロナウイルスの感染防止作を追い風にクレジットカード大手が「非接触型カード」を展開。その新局面でMastercardは日本に照準を合わせ、電子マネーにない与信機能と汎用性を武器に、持続可能な「触れない支払い」後押しへ動き始めた。
アジア・太平洋地区担当社長リン・ハイ氏に聞く
国際規格の決済網支援
5Gで新たなチャンスも
――コロナとの戦いはどのような影響をもたらましたか。
「世界中の人々は意図的に日々の行動を変えるようになり、新しい技術にも幅広く前向きな姿勢を示すようになっています。中でもモノに触れずに完了する決済手段として、非接触(コンタクトレス)を含むキャッシュレス決済の利用が世界的に加速しており、当社の最新調査では2021年第1四半期に、非接触決済が前年同期比10億件増加しました。非接触決済も含め、カードやスマートフォンを利用したキャッシュレス決済の普及は他国より遅れているものの、日本でも今後は一段と浸透していくでしょう」
――日本のキャッシュレス化の課題は。
「キャッシュレス化の推進へ非接触決済は最重要な要素の一つとなりますが、日本の最大の課題は、国際基準の規格との互換性です。ATMやキャッシュカード、QRコード決済や交通系ICカードのようなクローズドループと呼ばれる非接触決済まで、日本独自の規格が広く普及しています。これらは国際基準の規格とは互換性がなく、世界的に見るとガラパゴス化が進んでいるといえます」
「真のキャッシュレス社会実現には、国際基準の決済ネットワークインフラの普及が必要です。Mastercardの役割は、互換運用性の面で国内決済だけではなく、国境を越えて資金が移動する決済もサポートすることです。引き続き日本のパートナー企業とイノベーションを共創し、国際基準のオープンループ決済を進めていきます」
「消費者だけでなく、企業間の決済も非常に重要です。Mastercardは、経費管理のデジタル化による透明性と効率性の向上を支援するうえで他にはない存在だと考えています。企業間決済促進のため、導入企業が使用目的に合わせた使いきりの番号を自社発行して購買の合理化と会計処理の効率化、データ分析を可能にする『バーチャルカード』の導入を推進しています」
――テクノロジーの進化で決済はどう変わるのでしょう。
「Mastercardはペイメント業界のテクノロジー企業として、最先端の技術革新で相互運用性のあるソリューションを世界に提供しています。高速通信規格『5G』により、あらゆるモノがネットにつながるIoTの機器の多くは、新たな決済チャンスを生む可能性があります。デバイスが相互に接続する『M2M決済』はより多くのデバイスがネットにつながり、消費者の満足度が高い購買体験を実現できます。例えばネットにつながった自動車などを通じ、決済に新たな機会をもたらします」
――人工知能(AI)はどう活用していきますか。
「当社は既にAIを使い、毎日処理される約10億件の決済データの正当性を判断しています。取引における不正の可能性をわずか0.05秒で判断しています。今後は5Gでそれをさらに短縮し、より高速で安全なオンライン決済が可能になると考えます」
「今年2月、Mastercardは消費者により多くの資金移動の選択肢提供を可能にする暗号通貨を、年内にも当社ネットワークに導入するという計画を発表しました。現在、世界中の中央銀行や政府とデジタル通貨の技術を研究しています。バハマでは『Island Pay Mastercard(アイランド・ペイ・マスターカード)』というカードを介し、中央銀行が発行するデジタル通貨で決済を行えます」
――持続可能な世界実現への取り組みを教えてください。
「25年までに世界10億人の人々と、5000万社の中小企業をデジタルエコノミーに取り込むことを目指し、社会的・経済的不平等の問題に取り組んでいます」
「10年以上にわたり金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)のリーダーとして活動し、20年には、世界の銀行口座を持たない5億人の金融包摂を達成しました。コロナ禍が世界的に広がった20年には、中小企業の復興支援に2億5000万ドル(約275億円)、米国内7都市での人種間の経済的格差解消に5億ドルを充てると発表しました」
手軽に、より安全に支払いができる非接触型クレジットカードは日本でも利用が広がり始めている
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